弓弦(ゆづる)につがえて射る矢。戦の際に武器として使われた弓矢ですが、絵画でもまた、戦や武者を描いた際に登場します。
「忠臣義士銘々伝 尾久田孫太夫藤原重盛」
歌川芳虎 元治元年(1864)年
立命館大学アート・リサーチセンター蔵(arcUP4562)
この錦絵は幕末に描かれたもので、赤穂義士を描いたシリーズの一枚です。弓術に長けた奥田孫太夫は、背中に矢筒を背負い、今まさに矢を放ったところなのでしょう。武器として矢は、猛々しい印象があります。
一方で文様として親しまれている側面もあります。「矢絣」(矢筈絣の略)などは矢の形から文様の名前がつけられ、よくしられています。ほかにも「桐矢襖文辻ヶ花染胴服」(16世紀・京都国立博物館蔵)があります。胴服とは羽織の原形で、戦国時代の大名に好まれた上着のことです。こちらの胴服では、裾に矢を並列させた矢襖(やぶすま)文様を配していて、デザインとしてさまざまにアレンジされながら親しまれてきたことが想像されます。
はじめにご紹介するのは、的と矢が配された型紙です。この型紙は「突彫」と呼ばれる技法によって制作されたものでしょう。突彫は彫刻刀が薄く、鋭く整えられているため、線を表現することが得意です。そのため、背景の網目のような文様も表現することができるのです。背景があることにより、矢と的が浮かび上がるようにみえます。(KTS00347)
次にご紹介する型紙は、矢を大胆にデフォルメしています。大小さまざまな大きさの矢が直線と曲線を織り交ぜながら彫刻されています。一枚の型紙だけではわかりませんが、型が送られていくと、よろけ縞か立涌文様のようにみえるのではないでしょうか。デザインとしてもたのしめます。
こちらの型紙も突彫によりますが、こちらの場合は型紙が彫り抜かれている面積が大きくなっています。そのため、補強として絹糸による「糸入れ」が施されています。(KTS01900)
最後にご紹介するのは、矢が型紙いっぱいに飛んでいるような型紙です。非常に小さな矢が型紙全体を占めていますが、これは「錐彫」によるものです。錐彫は小さな孔を開けて彫刻する技法のため、小紋によくつかわれます。小さな孔を直線、ありは曲線に繋げていくことでさまざまな形を表現することができるのです。この型紙も、点のような小さな孔を丁寧に彫刻することによって矢の輪郭を表現しています。また、矢の周囲に霰のように散りばめられている孔と矢の輪郭線を構成する孔とは、じっくりみると径が異なることがわかります。錐彫の彫刻刀は、大小さまざまな半円、もしくは円の刃をもつので、彫刻される円の大きさも型紙によって異なります。径の異なる彫刻刀を使うことにより、型紙にメリハリが出てきます。(KTS04824)