日常生活で欠かすことのできない「文字」。普段は意思や情報を伝えるために使う道具ともいえる存在です。しかし、文字は美術工芸品を飾り、彩るために使われることもあります。文字をデザインに使用すると、字形のおもしろさや美しさが引き立ちますし、時には教養が試されることもあります。
たとえば、文字がデザイン化された小袖
「桜樹詠文字模様小袖」(女子美染織コレクション)の作例があります。こちらは『和漢朗詠集』の歌の文字がデザインになっています。また、歌舞伎『廓文章』に登場する伊左衛門は、作中の恋文をもとにした衣裳を着用します。
「廓文章」「藤屋伊左衛門 片岡我当」arcUP0267 立命館ARC蔵
染色に使用された型紙にも漢字、平仮名、片仮名、アルファベットがデザイン化されて使用されている例があります。日本語の音を表記する文字の種類としてはこれら4種類があるので、豊かな文字デザインがみられます。
キョーテックコレクションにも文字をデザインとして採用した型紙が多数確認でき、文字デザインに人気があったことがうかがわれます。その中からいくつかご紹介したいと思います。
こちらの型紙は、漢字と平仮名で構成されています。何が書いてあるのかを見ていくと、「京」「大津」「品川」などの地名があり、東海道の宿場町をデザインにしていることがわかります。文字の向きや漢字と平仮名を混在させることでデザイン性を高めているのでしょうか。この型紙の中に53ある東海道の宿場町がすべて載っているか探してみるのも楽しいかもしれません。なお「東京」の文字が見えますので、江戸から地名が変更された1868年以降に制作された型紙と推定されます。(KTS01668)
次に紹介する型紙は漢字、平仮名に加え片仮名もみられます。「小」「学」「校」の文字が確認でき、「ア」「イ」「ウ」など、五十音の一部が片仮名で書かれています。また、漢字と読み仮名がセットになって、「紙」「カミ」などもみられます。このデザインは、小学生が学ぶ文字の読みを取りこんだものなのでしょう。子どもには関係のない「徳利」があるのは、ご愛敬でしょうか。なお、小学校の制度ができたのは1872年なので、それ以降に制作された型紙と考えられます。(KTS01776)
最後にご紹介するのは、アルファベットを使って日本語の五十音が表現された型紙です。こちらは筆記体と活字体が混在しています。日本語の五十音をアルファベットで表記しているのですが、それぞれの文字を繋げても意味をなさないように思われます。この方が型紙では、アルファベットを使って日本語の音を表記することが目的だったようです。しかし、「hu」「ye」など現在ではあまり使用されない表記方法もみられ、ローマ字表記が定着する以前に制作された型紙であることが伝わる型紙です。(KTS08923)