芭蕉は中国原産の植物で、社寺や庭園などに観賞用として植えられています。長い楕円形の大きな葉を一度は見たことがあるのではないでしょうか。芭蕉の歴史は古く、平安時代初期には知られていたようです。また、イトバショウから繊維をとって糸にしたものを織る芭蕉布(ばしょうふ)と呼ばれる沖縄の伝統工芸があります。13世紀頃にはすでに織られていたそうで、琉球王国時代に夏の衣類として愛用されていました。太平洋戦争により、産地の多くは途絶えてしまいましたが、近年人間国宝に指定された方がいます。
芭蕉葉は特徴的な形をしているため、紋としても使用されたようで、江戸時代に刊行された紋帳にも数種類が掲載されています。たとえば、下段右から二番目の「三巴はせを」は巴紋を芭蕉の葉で形作っています。
[紋所帖] 文化13(1816)年arcBK03-0012
染の型紙にも芭蕉葉をデザインとして活かしたものをいくつか確認することができました。キョーテックコレクション約18,000枚の中から芭蕉葉があしらわれた型紙をいくつかご紹介したいと思います。
はじめにご紹介する型紙は、芭蕉葉と格子の型紙です。この型紙は、「突彫」とよばれる刃先を鋭く整えた彫刻刀を地紙に突き刺しながら絵柄を彫刻する技法によるものです。格子の直線と芭蕉葉の曲線が対照的です。また、この型紙は、地紙の大部分が彫り抜かれているため、文様同士が切れてしまわないように芭蕉葉同士が少し繋げられています。糊を引く際に型紙が壊れてしまっては困りますので、こうした工夫は染の型紙ならではといえるでしょう。
芭蕉葉があしらわれた型紙は、いずれも型紙に対して大きく配置されています。芭蕉葉は大きく配置する方がデザインとして一般的であったようで、芭蕉葉の迫力を活かすことができると考えられたためでしょうか。また、芭蕉葉は葉脈に沿って破れやすいため、その様子がデザインにも採用されています。
(KTS11721)
次にご紹介する型紙は、錐彫と突彫を組み合わせて彫刻されたものです。錐彫とは、半円形に整えられた彫刻刀を地紙に刺し、半回転することによって非常に小さな孔を彫刻する技法です。小さな孔を連続して彫刻することで直線や曲線を表現したり、ランダムに小孔を彫刻したりすることでさまざまな表現が可能になります。
こちらの型紙は、芭蕉葉の輪郭線を小孔により描き、その周辺に小孔をランダムに密集させることで芭蕉葉が際立つようデザインされています。また、一部の葉や全体の葉脈は突彫によるものです。二つの技法を合わせて使うことにより、メリハリのあるデザインになっているのではないでしょうか。
(KTS00054)
最後にご紹介する型紙は、芭蕉葉、麻の葉、市松、観世水を合わせたデザインになっています。多くの型紙は、複数のモチーフが一枚の型紙に配されるのですが、芭蕉葉は他のモチーフと一緒にデザインされている型紙が少ないことがわかりました。芭蕉葉と組み合わせて用いられるモチーフがあまりないのか、芭蕉葉のみでインパクトがあるからなのか、芭蕉葉だけが配される型紙が大半を占めていました。
複数のモチーフが用いられている点でこの型紙は、やや例外なのかもしれませんが、芭蕉葉の一部を長方形に当てはめて、市松文様のように表現しています。また、渦を巻いた観世水の中には麻の葉文様と呼ばれる縦横斜めの直線で構成された文様が配置されています。幾何学的な文様と曲線の文様とを組み合わせたデザインになっています。さらに渦水の曲線の中に小さな粒を彫刻し、観世水の渦や芭蕉葉の葉脈が少し掠れているかのように彫刻することで、水や葉の勢いを感じさせてくれます。
(KTS02160)